29日(木) 蕎麦と酒と温泉と
午後2時からは高校時代の友人と3人で、南部美人(岩手県二戸市)で蔵見学の予定。その前に二戸市に乗り込み、昼飯を食べることに。 行った店は二戸駅から徒歩1分にある、蕎麦屋『きんじ』。ここは数年前に、新幹線の時間待ちのためにぶらっと入ったらとんでもなくおいしくて、それ以来忘れられない店。いままでいくつか蕎麦を食べてきましたが、2位以下を大きく引き離してここの蕎麦が好きですねえ。 壁に貼られている紙を見ると、さすが地元と言うべきか各種南部美人の酒が置いてある。なかでも気になったのは「限定オリジナル純米吟醸しずく酒(530円)」。 これは飲まずにはいられないでしょうということで、今日の運転手(酒は飲めない)に一言断り、注文することに。
漬物があてとして出てきた。この気取っていない様がまたいい。 酒はほんのりと黄色く、きれいな香り、爽やかな酸味の酒でした。 そうこうしているうちに蕎麦がやってくる。まずは汁につけずに、そのまま5〜6本手繰ってみる。……うまい。たまらなくうまい。間、髪を入れずにさらに5〜6本手繰る。よろめくほどうまい。 蕎麦の殻がしっかりと見え、食感、香りがとにかくいいんですよねえ。汁をつけると今度は蕎麦の甘味が出てきて、これまたうまい。 それに蕎麦湯もいい。とろみのあるタイプで、ポタージュのように喉を通り過ぎて行く。身体全部が温まる。雪国にぴったりだ。
まず見たのは、仕込水の井戸。折爪馬仙峡伏流水(中硬水)。 ライトアップされ、肉眼では奥のほうまで見えたのですが、カメラで撮ったらなにがなんだかさっぱり分からないことに。 次に通されたのは、酒母のタンクを置いている部屋。 すべて醪(もろみ)のほうに持っていったらしく、あいにくどのタンクも空っぽでした。
続いて醪のタンク。階段をつつつと上がり、上から見せてもらう。 醗酵中の醪って泡が立ってて面白いですねえ。何気なく「この泡ってどんな味がするのですか?」と訊ねたら「ああ、ちょっと飲んでみますか」とほぼすべてのタンクの醪を柄杓ですくって飲ませてくれた。 おお! こんな体験ができるなんて思ってもいなかった!! 若い醪はアルコールが十分に出ていないので、酒という実感がまるでないですねえ。薄くてほんのりと甘酸っぱいジュースのような感じ。面白い! ちなみに南部美人さんの年間生産量は、一升瓶原酒換算で25万本だそうです。 次は槽(ふね)とヤブタ。 これはどこの蔵もだいたい一緒ですね。大事な酒は槽で、普通酒などはヤブタで搾る。
続いて瓶詰めの作業。 いままでいくつか蔵を見学してきましたが、これは初めて見ました。酒瓶がベルトコンベアでがががと運ばれ、その途中とちゅうにしっかりと検査する人がいて、ついつい見入ってしまう。酒ってこういう風にできるんですねえ。
……と、ここまでつらつらと書き並べましたが、実は見学時間は15分ほどだったり。年末のせいか忙しそうでした。タイミングが悪かったかな。 見学の合間に聞いた話では、岩手県内では今年(2005年)廃業した蔵が2つあり、いまは26蔵とか。なんとも寂しい話。 こうやって蔵見学のレポートを書くことで、少しでも清酒に興味を持ってくれる人が増えれば、わたしとしても嬉しいんですけどねえ。 見学のあとは蔵に併設されたショップで買い物。 期間限定(11月1日から4月末まで)の本醸造生原酒『南部美人 しぼりたて生』と、地域限定品(二戸周辺のみ)の吟醸生貯蔵酒『南部美人 結のしずく』を買って帰る。
見学が終わりその辺をぶらぶらして時計を見ると15時。竹馬の友と飲むにしても、まだ早い時間だ。思いのほか時間を持て余してしまったので、温泉にでも行こうということに。 二戸市には金田一温泉郷がある。なかでも気になるのは、座敷わらしが出るという噂が膾炙する緑風荘。事前の調べたところ立ち寄り湯もやっているらしいので、行ってみることに。 古い建物で、“昔ながらの湯治場”という言葉がぴったりなたたずまい。玄関を開けると左手に見えるガラス張りの部屋から初老の男性が出てきた。湯に入りたい旨を伝えると、「500円ね」と言い、右手の廊下を指差す。朴とつなのがなんともいい。こういう宿が妙に客あしらいがうまかったりするとがっかりしてしまう。 温泉までの細い廊下を歩くと、ぎしぎしと音が鳴る。単に老朽しているだけで、鴬張りとは違うんだろうけども、風情はある。途中に座敷わらしが出るという槐(えんじゅ)の間の案内が掛かっていた。
一階は男風呂、二階は女風呂となっており、なかへ入ってみると理由が分かった。表からは丸見えなんです。天井は高く、大胆なほど二面採光。ただ目の前は田んぼなので、誰かが覗くことはまずないと思われる。 時間が時間だったせいかほかには客はおらず、3人で貸し切り状態。贅沢だ。 ここはぜひとも冬に訪れたい温泉ですねえ。目の前に降り積もる白い雪。遠くに小さく見える黒い山々。ただそれだけ。白墨の世界なんです。 なんにもないが、そこにある――。子供の笑い声が聞こえる。うしろ姿が見える。湯気の向こうに、幻想の世界が広がっている……かも。
30日(金) 馬肉料理と酒と居酒屋と
午後2時からは高校時代の友人と3人(前日とは違うメンバー)で、菊駒(青森県三戸郡五戸町)で蔵見学の予定。その前に五戸町に乗り込み、昼飯を食べることに。 行った店は、地元では有名な馬肉料理の『尾形』。 上馬刺、馬刺ハム、馬肉のたたき、ハツ刺(心臓刺)、馬肉のすき焼き春巻き、馬肉の角煮、上肉鍋(桜鍋)とひと通り食べ、ビールも飲んだけど、ひとりあたま2,400円で済んだ。いやー、うまかった。ぶひひーん。
午後2時からは、予約していた菊駒にて蔵見学。高校時代の友人と3人で伺う。 杜氏の小菅芳美さん自らが出迎えてくれ、見学がスタート。酒造好適米を前に、まずは清酒の造り方の基本を聞く。
ひと通り説明を受けたあと、実際に蔵を見てみることに。 階段をつつつと上がり、醪のタンクを覗き込む。なんといっても香りがいいですよねえ。それにタンクごとに泡の立ち方に表情があり、音の大小があるのも面白い。このタンク1本で一升瓶換算にすると2,000本になるらしい。仮に一日一升飲むとしたら、5年と5ヶ月ちょっと。一日一合飲むとしたら、54年と9ヶ月ちょっと。そんな量。
酒税法第3条第3号によると清酒の定義は イ)米、米麹及び水を原料として発酵させてこしたもの。 ロ)米、水及び清酒粕、米麹その他の政令で定める物品を原料とし、発酵させてこしたもの(イ)、ハ)に該当するものを除く)。ただし、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(麹米を含む)の重量を超えないものに限る。 ハ)清酒に清酒粕を加えてこしたもの。
再び暖かい部屋に戻り、杜氏さんと対話。正味30分ぐらいお付き合いいただいたでしょうか、いろいろと訊きたいことが聞けた。 酵母によって造り方は大きく違ってくるだとか、絶対に同じ味の酒は造ることができないだとか、花酵母は金が掛かるだとか。 見学のあとは蔵に併設されたショップで買い物。 地域限定品(八戸のみ)の純米吟醸無濾過生原酒『菊駒 無濾過生』と、地域限定品(五戸地方のみ)の純米吟醸酒『菊駒 五醸(ごじょう)』を買って帰る。
今夜は八戸にある友人の部屋に泊めてもらうことになっていたので、見学のあとは八戸に移動。八戸市民の台所、八食センターへ。
ここへきた目的は魚介類でもあるのですが、実は清酒の品揃えも抜群にいい。 自分へのお土産と、『陸奥八仙 純米吟醸 瓶火 無濾過原酒』、『陸奥八仙 槽酒(ふなざけ) おりがらみ』を買って帰る。
入り口には縄暖簾。建物自体も古く、また天井には烏賊釣り用の道具や干物がぶら下がっていたりして、雰囲気が抜群にいいですねえ。店主も好々爺然としていて味がある。 写真もいくつか撮ったのですが、照明が暗くてうまく写りませんでした。なので、店内の様子はこちらを参考に。 酒を頼むと一合猪口でくるのも嬉しい。地のものを肴に地の酒をいただきました。さんぺい汁も温まる。きてよかった。
まだ飲み足りない。 というわけで、屋台が立ち並ぶ、みろく横丁へ。「魚工房 かつら」という店へ入る。 炭火にぽたぽたと滴る焼けた魚の汁がなんともいい香りで、食欲をそそる。焼き上がるのを待っているあいだ、「最近の子供たちがすぐにきれるのは、魚を食わないせいだ。学校も魚を食わせるようにすすめないと」など、店主の話を拝聴する。 「あ、わたしいま中学の先生なんですが」と友人が言うと、「給食で魚が出ないのが悪い」と店主。「あ、ぼくの父親は給食センターでメニューとか考えているんですけど」と、別の友人。 店主の渋面が忘れられません。
31日(土) 蕎麦と犬と
昨夜は友人の部屋でぐだぐだと飲む。9時ごろだらだらと起き、11時にご飯へ。目指すは地元でもおいしいと評判の蕎麦屋『番丁庵』。 はじめは南部殿様そば(胡麻切)を食べようと思ったのですが、その胡麻切蕎麦と大葉の蕎麦がセットになった二色蕎麦があるというので、そちらを注文。 大葉の風味に涼味を感じ、とてもさわやか。上品な味わいでした。
1日(日) 正月
この日はなにしてたんだっけ。さっぱり記憶がない。なんせこの日記を書いているのが、2週間以上も経ったあとなので。 日記というよりも回顧録ですね。
2日(月) 犬とお土産と酒と
夜は高校時代の友人と、地元で5人で飲む。 気の置けない仲間と飲むのは楽でいいですね。時間を気にせず、ゆったりと飲んだ。清酒ばっかり飲んだ。
3日(火) そして帰途
今回の帰省ではたっぷりとリフレッシュできた。なんといっても、蔵見学を2つもできたのが最大の収穫ですねえ。 田舎にいたときは蔵見学という発想すらなかったですが、いまこうして離れてみると、行きたいところがいくつもある。ひとつひとつ訪ねてみたいですねえ。