序文
長野県諏訪市がどうも気になる。舞姫酒造(舞姫・翠露)がある。宮坂醸造(真澄)がある。麗人酒造や伊東酒造、酒ぬのや本金酒造といった、まだ飲んだことがない蔵もある。 というわけで、わたくしタツ(あるいはバァカ)こと久保竜大と、クマこと熊沢正孝、ヒロの三人は、春に神奈川県内の蔵見学をしたときと同じようにレンタカーを借り、ぶらっと気ままに長野県内の蔵を見学してきました。 クマは前回と同じように本名も顔写真も出していいよと言っていたので、希望通りにフルオープン。わたしも、こと酒に関しては匿名であれこれ好き勝手に言うのはよしとしないので、フルオープン。ヒロは女性なのでしっかりぼかしておきます、ハイ。 9時ごろ東京を出て、諏訪に着いたのは13時ごろ。時間も時間だし、クルマを適当なところに止めて駅周辺で蕎麦屋を探す。ついでに夜に行きたいと考えていた居酒屋『りぶる信玄屋敷』の場所も確認しておく。 最初の見学は伊東酒造。約束の14時までしばし時間を潰す。
12日(土) 伊東酒造(長野県諏訪市)を見学
伊東酒造の見学の前に、蔵の立派な門の前で記念写真。
敷地内に併設されたショップで見学の約束の旨を伝えると、工場長さんが奥へ案内してくれた。 「散らかっているので写真はなるべくきれいなところをね」なんて軽口を言いながら、いろいろと説明してくれる。 長野県内のすべての(ほとんどの?)蔵は精米機を保有しておらず、みんなでお金を出し合ってひとつの精米専用施設を運営しているらしい。つまりどの蔵も「○○の米を××の精米歩合で」といった注文をし、それを届けてもらうとのこと。 ……んー、なにぶんこの記事を書いているのが旅行後一週間以上も経ったあとなので、細かいところで記憶違いがあったらごめんなさい。けど、だいたいそのようなニュアンスのことは言っていました。
普通酒は機械で精米し、吟醸酒などはストップウォッチ片手にざるで洗うらしい。その辺はどこの蔵もだいたい一緒ですね。 続いて、麹室(こうじむろ)や酒母室、分析室へ案内してもらう。
諏訪はご存知の通り温泉地。元々は従業員が入るために温泉を引いたらしいのですがそれだけだともったいないので、麹室にも引き入れたとか。麹室って常に暑くしていなければならないですからねえ。実に合理的です。 試験管などが並ぶ分析室を前に、「昔の杜氏であれば米の蒸し具合、麹の破精(はぜ)具合、酒母の出来など、触感や香り、見ためで“感覚的に”分かったけど、わたしらみたいな若い人にはその辺が分からなくなってきた」と、そうも若くない工場長さんが話してくれた。 ここ、笑うところだったみたいです。リアクション間違えて、三人ではにかんでしまった。
続いて醪(もろみ)のタンクが並ぶ部屋へ通される。 普通酒はヤブタで搾り、吟醸酒は槽(ふね)でゆっくり搾るとのこと。以前は袋吊りもやっていたらしいのですが、とある人の助言でやめてしまったらしい。 袋で吊るすということはそれだけ空気に触れる面積も多くなるわけで、すなわち酸化しやすいというリスクを伴う。そんな理由らしい。 ここでひとつ、以前から気になっていたことを質問してみた。なぜ醸造アルコールを添加するのですか、と。 わたしとしては純米吟醸酒(純米大吟醸酒)こそが最高の姿だと思っているし、そこにアル添されると急に大人しくなるというか物足りなくなるというか、上品な味に変化してつまらなく感じてしまう。また、アル添することで水増しを図っているのではないかと、さもしい憶測もしてしまう。醸造アルコールに対して、決していい印象はない。 ところが工場長さんが言うには、世の中には純米酒を飲みにくいと感じる人が意外と多いらしく、アル添することにより飲みやすくするのが、アル添の最大の理由であるとのこと。思えば日本酒を苦手な人って、あの香り(特に純米酒が持つ米米しい香り)が駄目だという人が多いかもしれない。吟醸香であれば、抵抗はかなり和らぐのかもしれない。蔵だってひとつの企業だもの、かたくなに純米酒一本で勝負するよりも、より飲みやすくより売れやすいものを造るのは当然の姿ですよねえ。 醸造アルコールに対する偏見が少し解けたわけですが、このあとの試飲で醸造アルコールの概念が思いっきりぶっ壊されるとは思ってもいなかったわけで……。 ひと通りの見学を終え、蔵に併設されたショップにて試飲。一番の売れ筋は『横笛 特別高濃度酒 古道』という本醸造酒で、当然試飲させてもらった。 なんでしょう、この濃醇なとろみ。芳醇な香り。いつまでも伸びる余韻。黙って出されたら、「お。純米吟醸無濾過生だね」って言ってしまいそうなくらい本醸造らしくなく、いい意味で裏切られた。この本醸造は好きだ。飲める。ぐいぐい飲める。 本醸造に対する考え方や先入観を、改めないといけないですねえ。本醸造というだけでスルーしてきた酒のなかにも、実はとんでもなくおいしいものがあるのかも。その辺を見逃すのはもったいない。 次に売れているのは『横笛 山廃純米酒』で、これもなかなか好きなタイプだったので買おうとしたら工場長さんが「造っているわたしが言うのもなんですが、どうもわたしは山廃が苦手で……」と言う。本当に買うんですか、という顔をされてしまった。造っている当人に好き嫌いがあるにしても、なんとまあストレートな物言い。いっそ心地いい。 このショップは昨年(2004年)作られたもので、甘いとか辛いとか、好きとか苦手とか、忌憚のない意見を聞けることが刺激となり、酒造りにフィードバックされるのが目的でもあるとのこと。どんどんいろいろなことを言ってもらいたそうでした。また、意外に若い人や女性同士で訪れることも多いらしく、日本酒って年寄りの飲む酒だという認識を改めねばとも言っていました。 若い人だって女性だって、おいしければ日本酒を飲むんですよねえ。そのおいしさを周知するのは、我々のようなネット時代の若者ができることじゃないのかなあと思ったり。
12日(土) 舞姫酒造を訪ねる
続いて訪れたのは『翠露』などで知られる舞姫酒造。蔵に併設されたアンテナショップ『酒の蔵まいひめ』を覗いてみた。 三人とも翠露がべらぼうに好きなんですよねえ。いろいろ試飲させてもらいましたが、翠露ではなく、去年の『舞姫しぼりたて(本醸造)』がおいしかった。伊東酒造に続き、ここでも本醸造のおいしさにびっくりさせられた。一年置いたせいでまろやかになったのか、あるいは元からおいしい酒なのか。 残念なことに一升瓶しか置いておらず、都内で扱っている店を訊いてみたら、このリストを見せてくれた。いつもよく利用する松澤酒店(練馬)や升新商店(池袋)の名前があった。今年のしぼりたては、これらの店で購入ですね。
12日(土) 麗人酒造を訪ねる
続いて訪れたのは麗人酒造。声もか細く、まさに“麗人”という言葉がぴったりの女性が、いくつも試飲させてくれました。2,000人に1人くらいの麗人でしたねえ。びっくりした。 ここでも一本購入したら、非売品の仕込水(500ml入りペットボトル)をプレゼントしてくれました。こういうのって嬉しいですねえ。
12日(土) 宮坂醸造を訪ねる
続いて訪れたのは『真澄』などで知られる宮坂醸造。ここだけは他の蔵と違い、ちょっと異質ですねえ。試飲をするためには300円を払ってグラスを買わなければならず、ビジネスライク臭がぷんぷんというか。 けちで言ってるんじゃない。経済としては間違っていないが、どうもいけ好かない。酒蔵案内のDVDまで売っているってどういうこと? 試飲せずにそそくさと出てきた。
12日(土) 諏訪湖間欠泉センター
ひと通り酒蔵を巡り終え、諏訪湖畔にある諏訪湖間欠泉センターへ。ここでは1時間半ごとに間欠泉が吹き上がるらしい。 実は間欠泉のメカニズムというのはよく分かっていないらしく、空洞説と垂直管説のふたつが有力とのこと。
わたしたちとしては、第三のバルブ説を唱えたいですね。時間通りの16時半ぴったりに吹き上がるのはどうも合点がいかない。誰かが裏でバルブを開け閉めしてるんじゃないかなあと勘繰ったり。
12日(土) 今宵の宿へ
間欠泉センターのあとは今宵の宿へ。ご飯の前に、風呂に行く。 フロントで片倉館千人風呂の無料チケットをもらい、寒空のなか下駄をからころ鳴らして浴衣姿で行くこと2〜3分。片倉館千人風呂が見えてきた。 “千人風呂”というのは、明らかに誇張ですねえ。あるいは現代的に言うなら不当表示。百人がぎゅうぎゅうに詰めたら入れるんじゃないかってくらいの広さでした。「百人入ってもだいじょーぶー……かな」。 宿に戻り、早めの夕食。 はじめに刺身やら鍋が出てきたあと、「このあと蕎麦をお持ちします」と言ったきり30分。なんにも出てこない。痺れを切らしフロントへ電話するとすぐに持ってきたが、中30分もあけて、なにか食べられるわけがないでしょう。興ざめだ。忘れてたんでしょ、と訊くと、結婚式の二次会がどうのこうのと、ごにょごにょ言う。〆のご飯や味噌汁は断り、さっさと着替えて諏訪の町に繰り出した。 最悪ですね、かたくら諏訪湖ホテル。なにか罰ゲームでもしてもらいたいです。
12日(土) 居酒屋りぶる信玄屋敷へ
昼に所在地のチェックをしていた『居酒屋りぶる信玄屋敷』。立腹と少しの空腹で訪れる。 事前にホームページでメニューを見てここにしようと決めていたのですが、店でメニューを見るとさらにテンションが上がりますねえ。長野県内の酒、諏訪の酒ばかりです。 地のものを肴に、大いに飲む。
蜂の子は初めて食べましたが、なにか一種のナッツのようで、実に香ばしい。 また、諏訪湖はわかさぎが有名らしく、これはどこで捕れたものか分かりませんが、おいしかった。 馬刺しは新鮮で滋味がある。食べたら身体が熱くなりました。 そしてなにげに〆鯖がうまかった。池袋の楽旬堂 坐唯杏のもおいしいですが、ここのもなかなか。 酒、肴ともに大満足でした。クーポン券を持っていたので、三人で8,800円で済みました。思っていたよりも安かった。
13日(日) 寝坊
昨夜居酒屋から戻り、開けた(空けた、じゃないですよ)酒はこの四本。翌朝、時計を見たら8時半。天気がいいですなあいいですねえ……というか完全なる寝坊。 朝食は部屋飯ではなく所定の場所でのバイキング形式で、8時半で終了とのこと。なんにも食えない。 ささっと風呂に入り、ちゃちゃっとお土産コーナーを覗き、チェックアウト。 本日の蔵見学は松本市の笹井酒造。途中のサービスエリアでメンチカツ(50円)を買う。ほくほくジューシーでうまい。
13日(日) 笹井酒造(長野県松本市)を見学
続いて蔵の奥へ。醪(もろみ)が発酵しているところを見せてもらえました。 香りのよさにも驚きですが、一番感動したのは“発酵する音”。知識では知っていたのですが、発酵するときって本当に音がするんですねえ。ぷつっぷつっ、とかわいらしい音が。 その後、槽口というか、しぼりたてというか、これ以上ないってくらい新鮮な生酒(当然、無濾過)を、柄杓ですくって飲ませてもらいました(写真ではぼけてしまいましたが、ちょろちょろと搾られています)。 もう、よろめくくらいいおいしいですねえ。これはやばい。やばいやばいやばい。うますぎる。 写真には撮っていなかったのですが隣りには普通酒用の上槽機(ヤブタ)もあり、これで搾られたものが板粕としてスーパーなどで売られているとのこと。確かに形は一緒ですね。ほえー、知らなかった。
その後、敷地内のショップへ。 さまざまな酒が並ぶなか、先ほど試飲した『笹の誉 吟醸造り 初しぼり』と、ちょっと面白そうな紫黒米を使った『笹の誉 古代黒米の酒』を購入。 杜氏さん(?)に見学のお礼を言い、辞去する。
13日(日) そば屋五兵衛で昼飯
見学を終えたのがちょうど昼時でもあり、せっかく長野にきたのだからと蕎麦屋で昼飯。そば屋五兵衛で粗挽き生粉打ちそばをいただく。 まずはお塩で召し上がり下さい、と言われ、なんにもつけずに2〜3本手繰ってみる。うまい。4〜5本手繰ってみる。ますますうまい。 次は塩。これもまた蕎麦の風味(特に甘味)が引き出され、すごくおいしい。蕎麦に塩というのもありですねえ。 最後は汁。もう文句ないですね。笑みがこぼれます。
13日(日) 松本城を途中であきらめる
食後は松本城へ。 600円を払い、上へ上へと登ったのですが、いかんせん人が多い。天守閣最上階まで40分掛かると言われ、途中で引き返した。 諏訪湖の間欠泉のバルブ(と思われるもの)をしっかりと締め、再び諏訪へ。
13日(日) 万治の石仏と相撲を取る
諏訪へ引き返し、万治の石仏へ。川沿いの畑のなかに、なんの予感もなくその巨体が現れる。 これ、見たかったんですよねえ。岡本太郎も大絶賛とか。 ぼてっとしたボディが曙を思わせます。がっぷり四つで組んできました。びくともしねえ。
13日(日) 諏訪大社下社春宮で御柱を見る
万治の石仏のあとは、すぐそばの諏訪大社下社春宮へ。 御柱って境内の四隅に立てられているんですねえ。結界かなにかの意でしょうか。 ここではおみくじを引いたり、御柱箸を買ったり。
13日(日) 諏訪大社下社秋宮でも御柱を見る
続いて諏訪大社下社秋宮へ。ここでも御柱を見る。 次回の御柱祭りは、平成22年とのこと。一度は見てみたいですねえ。
跋文